物語
「20階層」
深く深く
もぐったところ
誰もたどり着けなかったところ
きれいに澄んだ
やさしい水のあるところ
出口を抜けると
君の世界が広がっている。
ああ、ここにいたんだね。
「こんにちは、初めまして。
はじめまして、
はじめまして、
お会いできて
嬉しいです。
ずっとあなたを
探していました。
どこにいるか
わからなかったけど
ずっとずっと、
会いたかったです」
たどり着いた人が
優しく笑う。
きれいな水の底で
花をみていた人が
空から来た人を見上げて
「ようこそ」と小さく呟く。
初めてあらわれた「ひと」に
戸惑って
それでも
「話しかけてくれたのは
あなたが初めてだよ。
こんにちは、はじめまして」
と、嬉しそうに笑う。
言葉が通じる人を見つけたら
これまでどのくらい
「通じてなかったのか」に気がついた
人と話してると
通じないことが
わかってしまう。
ああ。
どんなに言葉を尽くしても
本当の意味を
こころの奥を
わかってもらえない。
ぎゅ、と抱きついて
「言葉が通じないんだ」と呟いた。
みんなと話をしても
通り抜けていくよ。
伝わらないよ。
世界の隅で
ひっそり生きていくしかないのかなぁ。
「ねぇ、君の言葉が通じる人は
どのくらいいるの」
あなたと、もう一人ぐらい…。
ふたりしか、いない。
とん、とん。
暖かい手が
ゆっくり、背中で はねる。
「うん。僕は思うんだけど
こころって20階層ぐらいあってね。
僕と君は、たぶん、
17とか、18ぐらいの深さで
話してる」
そうだね。
ちがう人だから
20は、わからないね。
「うん。一番底の20層目は、
自分でもわかってないところじゃないかな」
とん、とん。
くっついたところから
静かな声が染み込む。
「僕もさ、君をみつけて
ああ、こんなに伝わるんだって
知っちゃったから
仕事してて
浅いとこで話してるなぁって
思うこと、あるよ。
0.1しか伝わらないこともあった。
それでも、
浅いとこしかわからなくても
現実はまわっていく」
そうか。
「君には
深く伝わる人が
ふたりいるんでしょう。
すごいことだと、思うよ」
うん。そうだね。
「みんなに、絵をみてもらおう。
言葉より、きっと伝わる」
うん。うん。
絵をみてもらう。
絵を、みてもらう。
絵を描いたよ。
あなたが言ってた「20階層」の絵。
そうしたら
気がついたんだけど
あのね、つながるよ。
こころが20階層あるとして
深くなるほど
伝わる人は少なくなるんだけど
1の人が5とつながって
5の人が8まで来てくれて
そんな風に
星座みたいに
深いところまで
誰かを通して
なにかを通して
つながってると思うんだ。
あなたが言ってた
0.1の人とも
きっと、どこかでつながってる。
だからね、大丈夫だよ。
大丈夫だよ。
「ああ…、そうなんだね。
君には、星座に見えるんだね。
0.1を悲しまなくていいんだね。
ありがとう。
ありがとう」
<販売情報>
「20階層」
・水彩画
・サイズ:縦26cm・横32cm(額の外側のサイズ)
・制作日:20141127
・価格 :50,000円
・送料 全国一律1500円
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