「不時着、あるいは離脱」
編隊の中核で、西を目指し飛んでいた
伝わる振動
はがれる片翼
落下するとき
仲間を巻き込まなかったことだけが
幸いだった
不時着。
仲間が遠ざかっていく
到着時刻は決まってる
スピードは落とせない
俺がいなくなって
ひとりあたりの負担はさらに重くなったろう
すまない、と
届かぬ距離で呟く
荷物は無事だ
無線機は持っている
救援を呼べばいい
片翼をつなげて
フルスロットルで追いかければ
また西へ向かえる
背負った荷物を降ろそうとして
東に次の一団がみえた
自分が欠けてもサイクルが続くことを知る
高速に耐えうる者だけが
飛び続けられる世界で
仲間を気遣いながら落ちていった
たくさんの同志
無事に着水できたのか
海面で砕けたのか
音は聞こえず
地上を気にかける余裕もなく
ただ空を凝視し
神経を張り巡らせて
アクセルを踏み続けた
片翼が落ちて初めて
自分もまた飛べない者であったと知る
俺の隣で
「間違ってない」と
まっすぐ前をにらんだ相棒を思い出す
このままじゃ間に合わない
速く、速く、もっと
仲間が飛んでんだ
間に合わせろ
遅れまいと
仲間に迷惑をかけまいと
プライドを守ろうと
それぞれが必死に飛び続けた
そうだな
そこに間違いはなかったんだろう
到着時刻は決まってた
あったのは
「間違ってない」という狭い道だった
片翼になって思う
間違いだと塞がれ消されたいくつもの選択肢は
一体、誰にとっての不都合だったのだろう
夜が明ける
視界がにじむ
なぁ。
目指した場所にあるものを
皆は、知っていたのか
西に西に飛び続けて
一周し補給して、また西へ
なぁ、ほんとうに
全員が飛び続けることを望んでいたのか。
俺は
飛ぶことを、本当に望んでいたのか
狂乱と連帯の中で
誰も彼もが
落ちられない、スピードを緩められないと
がんじがらめになっていた
俺は飛び続けられなかった
それは間違いか。
俺にとっても間違いなのか。
ああ、また、次の一団がくる
次から次へと
高速で空を駆ける
飛ぶものは美しい
操縦席から見た空が
言葉をなくすほど好きだった
海の上に降りて気がついた
ここからみる空も
同じ色をしている
翼が波に揺れる
無線機が背中でノイズを上げる
『No. 214。応答セヨ。状況ヲ報告セヨ』
状況――、これは不時着か、離脱か。
揺れる片翼の上で
宙でみたのと同じ空を見上げる
視界がにじむ
『応答セヨ。No.214、状況ヲ報告セヨ』
無線機は、背中に。
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原画「不時着、あるいは離脱」 20150815
・水彩画
・サイズ:縦26cm・横32cm(約。額の大きさ)
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