物語

「雨の使者」

わたしが近づくと、やぐらの鐘が鳴る。
ばたん、ばたんと戸が閉じる。
 
 
ちがう。
怖がらせに来たんじゃない。
 
 
雨が、必要でしょう。
穀物がなるように、花が咲くように。
 
だから来たよ。
 
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言っても、誰も聞いてはくれなくて
 
わたしが涙したら、
戸は、より固く閉まるようになった。
 
 
その音が聞こえないように
たくさんの雨を降らせた。
 
 
ざあざあ、ざあざあ。
 
降らせるほどに、鐘が鳴る。
 
 
からん、からん。
家に、帰れ-、帰れ-。
 
 
野太い声がする。
子どもたちが家に駆け込む。
 
 
ああ。
わたしには帰るところがないよ。
 
 
ざあ、ざあ。
たくさんの雨が降る。
 
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いつからか
どのくらい降らせれば良いのか
わからなくなった。
 
 
鎧で全身を覆って
ただただ、雨を降らせた。
 
 
どれだけ心を痛めても
雨は必要なのだと、
そのことだけは、知っていた。
 
 
ばたん、とかすかな音がした。
 
「花が咲いたよ。ありがとう」
 
少女の声は幻聴だ。
わたしの夢が見せる幻想だ。
 
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ばたん、ばたん。
戸が閉まる。やぐらの鐘が鳴る。
 
家に帰れー、帰れ―。
 
 
心を凍らせ
追い立てられるように
 
 
急いで急いで、
雨の使者は、空を駆けていく。
 
 
次の村に、行かなきゃ。
怖い村だ。わたしが行くと、皆が怒る。
それでも行かなきゃ。
 
 
「ずっとあなたを待ってたよ。花が咲いたよ」
 
 
呼びかける少女の声を聞きながら
これは夢だと、花の咲いた村を通り過ぎる。
 
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<続く>
 
 


<販売情報>
 
「雨の使者」
・水彩画
・サイズ:縦26cm・横32cm(額の外側のサイズ)
・制作日:20141118
・価格 :120,000円
・送料 全国一律1500円
 


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 物語 
2014-11-18 | Posted in 物語Comments Closed 

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