物語
「葉」〜記憶の箱と秋の庭〜
季節が押し寄せて
僕は運ばれる。
乾いた何かが
手の中にあった。
なにを持っているのだろう。
いつから持っていたのだろう。
「大丈夫。とてもきれいだよ」
優しい声に促されて
おそるおそる「それ」をみた。
赤い葉。
これ――
これは君にもらったものじゃない。
他の誰かが、僕に渡したもの。
怖くて怖くて捨てたいのに
手を離せない。
「捨てなくても、大丈夫。
いつか思い出せるといいね」
思い出す?
僕の過去に
心が通う人はいなかった。
このまま、全部なかったことに。
時が経って
この葉が霧散するのを待つから。
「そう」
どうして悲しそうなの。
これは君じゃない。
君との思い出じゃないよ。
「うん。その葉っぱは、私じゃないけれど。
葉っぱを捨てるのも、あなたの自由だけれど。
大事にしたらいいと思う」
どうして?
「その葉っぱ、きれいだもの。
きっと、あなたは愛されてたよ。
永遠じゃなくても
望んだ形じゃなくても
大切に想われていた時が、あったんだよ」
そんな時がほんとうにあったのか
わからなくて
思い出すのも怖くて
視界がにじむ。
君が
葉っぱごと
そっと僕を抱きしめた。
「私が起きた時
『よく来たね』って
言ってくれたでしょう。
あなたも来たんだよ。
葉っぱをくれた人や
たくさんの人の手を取って
季節を超えて、来たんだよ。
あなたの思い出も
いつかちゃんと、行き着く。
だから
なかったことにしなくても、大丈夫。
大丈夫だよ」
頷くことしかできなくて
今はまだ、
思い出すことも
葉っぱの意味を確かめることも
できない。
季節が流れて
いつか
記憶の箱を開けるときが来る。
傷の痛みと一緒に
葉っぱをくれた人のことを
思い出すときが来る。
行き着けますように。
痛かったけど
辛かったけど
精一杯を尽くした
あたたかい過去だったと
思えるように。
葉っぱをくれた人に
ありがとうって
あなたも
僕を君につないだ一人なのだと
思える日が、来るように。
*「花」の対になるお話です
<販売情報>
「葉」
・水彩画
・サイズ:縦32cm・横26cm(額の外側のサイズ)
・制作日:20141208
・価格 :50,000円
・送料 全国一律1500円
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