16.お礼のヨーグルトジュース

 さくら色 

 竹居の言ったとおり、私は大丈夫だった。というか、生徒会は忙しすぎて、文集の校了が終わるまで、泣く暇さえなかった。締め切りと戦いながら、綱渡りをするように毎日を過ごした。危ないところは、ヒロキ先輩がすかさずフォローしてくれた。
 金曜が文集の校了期限だったのに、翌週の月曜にミスが見つかって、大慌てで修正をした。カオル先輩がすごい剣幕で印刷会社に電話でねじ込んでくれて、どうにか収まった。
 そうしてやっと、生徒会は小休止に入った。
 火曜の放課後、生徒会室に行くと、三年生を送る会のプログラム表づくりが待っていた。
 学校内で印刷する分で、期限はまだあるし、気は楽だ。ノートパソコンでカタカタ作っていく。
 カオル先輩は私の向かいに座って、三年生を送る会の準備品リストをチェックしていた。
 ヒロキ先輩が生徒会室に入ってくる。紙パックのジュースを三つ、私に示す。
「マコちゃん、どれがいい?」
 オレンジかバナナミルクかヨーグルト。
「わ、ありがとうございます」
 ありがたくヨーグルトを選ばせてもらう。
 ヒロキ先輩がにこりと笑って、カオル先輩の隣に座る。カオル先輩の前にオレンジを置く。
 ああ、好みなんて聞かなくてもわかってるんだな。
 そんなことを思いながら、二人をみていた。
 ヒロキ先輩が隣に座っても、カオル先輩は嫌な顔をしなかった。
 どうやら、仲直りはできたらしい。
「カオル、LEDキャンドル買いに行く?」
 バナナミルクを飲みながら、ヒロキ先輩が聞く。
「うん」
「いつ行くの?」
「土曜か、日曜」
 カオル先輩の答えは素っ気ない。
 うーん、まだ告白はしてないのかな。
 期限は明後日ですよ、ヒロキ先輩。
 念を押すべきか、と考えていると、ヒロキ先輩がカオル先輩の綺麗な黒髪を一房とって、くるくると自分の指に巻き付けた。
「一緒に行こうよ。せっかくだし。デートしようよ」
 カオル先輩が固まる。
 私も固まった。
 ああ、これは。
 そういえば、ヒロキ先輩は、私の頭はよくなでてくれてたけど、カオル先輩に触ったところなんか、見たことなかった。
 こんなふうに、カオル先輩の髪、触るなんて。
 うわ。
 カオル先輩に向ける、ヒロキ先輩の笑顔が、すっごく甘い。
「ね、カオル。一緒行こ」
「ちょっと! やめなさい」
 カオル先輩の頬が赤くなる。自分の髪で遊ぶヒロキ先輩の手を、あわてて振り払った。
 あわてるカオル先輩なんて、初めて見るよ。
 うわぁ。
 告白、うまくいったんだな。
「マコちゃん。それ、お礼ね。ささやかながら」
 ヒロキ先輩が、楽しそうにヨーグルトジュースを指さす。
「おめでとうございます!」
 笑顔で言った。
 同時に、胸の中からひたひたとこみ上げてくるものがあって。
 やばい。
 これは、泣く。
 さすがに見栄を張れない。
 まずい。
 書きかけのプログラムを上書き保存して、ノートパソコンを閉じた。
「私、今日、用事があって。帰りますね」
 なんとかそこまで笑顔で言って、カバンと飲みかけのヨーグルトジュースを手に、生徒会室を出た。



 さくら色 
2016-01-08 | Posted in さくら色Comments Closed 

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